【寄稿記事】NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』は戦国時代の「ナウシカ」!? “歴史マニア”も納得する理由

【はじめに】
けものフレンズ』の記事を書いたことによって僕は一躍スターダムにのし上がった、ということがあるはずもないが、とりあえず最低限のハードルはクリアしていたらしい。次の記事も書いてみないかと誘われていた。

お酒の場での話で、担当に「先生」などと分かり易いおだてを入れられ、気をよくした僕は体よくOKしていた。ちょろい。


ちょうど最近はまっているものとして、大河ドラマ『おんな城主 直虎』の話をしていたのもあり、題材はそれに決まった。
そんな寄稿記事の2作目。個人的にも気に入っている。

NHK大河ドラマおんな城主 直虎』は戦国時代の「ナウシカ」!? “歴史マニア”も納得する理由

2017年5月4日 (木) 18:01 配信

 

17年のNHK大河ドラマは『おんな城主 直虎』。タイトルだけを見て「何をした人?」「大河ドラマなのに女性主人公では、ホームドラマや恋愛に終始しているのでは?」という疑問や不安を抱き、食わず嫌いをしている方も多いかもしれない。

  

確かにそういった要素もあるが、きちんと歴史の息吹を感じる作品である。今からでも観るのは遅くない『おんな城主 直虎』の魅力を、ここでは歴史的な魅力を主にして伝えていきたい。

 

主人公は「井伊谷の直虎」

大河ドラマは基本的に歴史的人物をテーマに取り上げ、その人生がいかにあったかということをエンターテイメントにしたドラマである。その観点から、柴咲コウ演じる主人公・井伊直虎という人物を考えると、確かに何をして活躍をした人なのかが想像しづらく、敬遠する部分があると思う。

 

井伊直虎は、井伊谷(“いいのや”という現在でいう静岡県浜松市の一部)を長年治めていた領主一族の娘で、戦乱で一族の大人が亡くなってしまい、女性でありながら一時期実質的な当主となった人物である。

有名どころの作品で例えるなら、『風の谷のナウシカ』で辺境にあった“風の谷”族長の娘だったナウシカのようなものである。

 

戦国時代に詳しい人なら、「井伊」と聞いてまず出てくるのが井伊直政井伊直弼ではないだろうか。

井伊直政徳川家康の配下として大活躍をした武将であり、直虎とは親戚関係で幼少時の後見人であった。井伊直弼は幕末に日米修好通商条約を締結した江戸幕府大老である。

 

ただ、『おんな城主 直虎』の時代ではあくまで一地方の領主。戦国の世で大国の命令に付き従い、疲弊した状態が描かれる。戦国の大河ドラマといえば、有名武将の活躍や大国同士の戦いを想像するだろうが、この作品で描かれているのは「領地経営」の部分であり、社会史的な領主と農村関係である。そこを評価する歴史ファンは少なくない。その一部をご紹介しよう。

 

直虎のツボ・その1 農村を投資の場に?

直虎が領主となり、まず描かれたのは “徳政令”(借金の帳消し)の話だった。

 

領地の農民が商人から借金をしており、返済の難しさから直虎は借金の帳消しを請われてしまう。しかし、井伊家も商人からお金を借りていて、お金には困っていた。借金の帳消しは、借り手側にはこれほど嬉しいことはないが、貸し手側からするとこれほど理不尽な話はない。商人が貸し倒れとなりお金が貸せなくなれば、経営者としてお金を借りる側の井伊家も逆に困ってしまうことにもなる。

 

「農民を借金から救う」「井伊家の財政も守る」という難題をクリアするために直虎が出した答えは、「商人が村の年貢を徴収できるようにする代わりに、借金の返済は数年猶予。その間に借金返済ができるよう、商人の知恵で村を豊かにする改革を行う」ことだった。

 

この案に借金の帳消しを望む農民側は当初反発したが、直虎は「村が変わらなければ、また借金をするだけ」と説得、農民の信頼を得ることに成功した。井伊家が従う大名の今川家をも「まず民を潤すことで今川家を潤す」と経営方針を説明、認めさせることに成功した。詳細は省いたが、ここの流れは実に見事で、大名、地方領主、百姓、商人、その力関係や協力関係を通常の歴史ドラマではやらないような内容で上手く描いていた。

 

直虎のツボ・その2 当たり前だった“人身売買”の描写

また、その後は実際の領地経営の話となり、木綿が今後の衣料素材の主流となると予測、お金になると考え綿栽培を計画する。しかし、戦争で人不足となった農地にはそれを実施できるほど人がいない。人手を借りることもできない状況。どこかで戦争があれば人身売買の市が起きるという話を聞いた直虎は乗り気になるが、肝心の戦争は近くでは起こっていなかった。

 

結局「人を集めるだけなら、お金を使わずとも人が集まるようなおいしい噂を農民に流せばいいのでは」という家臣の妙案で、荒地を3年耕せば自分の土地になると噂を流し、人集めを成し遂げた。

 

戦国時代に人身売買が行われていたことは、現代の感覚では正当化が難しいこともあり、通常は表現されない。この作品の上手いところはそういう人身売買が当たり前にあったという当時の現実を取り入れながらも、それよりも妙案にて問題を解決していったところにある。

 

直虎のツボ・その3 「偉人なし」

そして、直虎は“国衆”である。そもそも国衆というのは何かというと、現代風にいえば、その土地に住み、少ないながらも兵隊を持っている市長や町長のような小領主である。

 

昨年放映していた『真田丸』も同じ立場の国衆が主人公であったが、『真田丸』には真田家に、持ち前の智謀で多くの大名を手玉に取った”真田昌幸”や、徳川家康をあと一歩のところまで追い詰めた”真田幸村”はじめ、有名な超人武将が登場した。そこでは超人が知恵を駆使して戦国を生き残る話が主に描かれていたが、現在の『おんな城主 直虎』には傑出した人間は基本的に登場しない。

 

超人ではない一地方の“国衆”を、地に足をつけて描いている。やってみなければわからないと無鉄砲だが諦めない直虎、頭は切れるが井伊家を乗っ取りすると疑われ信用されない小野政次高橋一生)、銭の匂いがすれば何でもするという瀬戸方久ムロツヨシ)、などなど。それぞれが足りないところをあわせて、井伊家を盛り立てて物語を作り上げている。大河ドラマとして超人が活躍しない異色な部分が魅力的だ。

 

今後は戦争にも巻き込まれる状態が描かれるだろうが、超人のいない井伊家がどのように生き残りに対処していくのか、とても興味深い。

 

ここまで歴史的な魅力を中心に紹介してきたが作品の魅力はそれだけではない。登場人物自体の魅力や脚本の妙味、そしてかつてはあの有名な歴史シミュレーションゲーム信長の野望』の音楽を作っていた菅野よう子による音楽の引き立てなど、作品の魅力は語りきれないほど詰まっており、これから更に期待できる。

 

2017年5月5日(金)に総集編が放映される予定なので、まだ観ていない方は、ゆっくりだが着実に面白い今年の大河『直虎』をここから見始めるのも遅くはないだろう。

(文:aibon)